未公開シナリオ
「FIREな夏のオラリオ水鉄砲乱闘」
1話
ヘスティア
スタートアップでスケールアップ……
ポートフォリオで結果にコミット……
ヘスティア
狙えよ、ブルーオーシャン……
弾けろ、モウカールコモディティ……
ヘスティア
巻き起こせよ、イノベーション!
ボラリティの高さこそドリーミンッッ!
ベル
か、神様……!!
ヘスティア
このボクを敵に回した段階で、
君達の敗北は、最初から決まっていたのさ。
ヘスティア
ふふっ、ははははははははっ! さぁベル君!
君を倒して──ボクはレバレッジマックスの夢を掴むんだぁ!
リリルカ
大変なことに……なってしまいました。
リリルカ
ベル様の驚異的、というか異常すぎる成長速度もあって、
なんと、ファミリアの等級がDに……。
ヴェルフ
なに暗い顔してるんだ、リリスケ?
昇級なら、めでたい話だろ?
リリルカ
はぁ……
本当にヴェルフ様は、お気楽でいらっしゃいますね。
リリルカ
ファミリアの等級が上がるということは様々な情報をギルドから
与えられると同時に──責務も増え納税額も上がるということ!
リリルカ
うちのような零細貧乏ファミリアにしてみれば、
一歩間違えれば破産にさえ追い込まれるありがた迷惑な事態なんです!
ベル
えっと……今日、ギルドに行ってきたみたいだけど。
何か、あった?
リリルカ
ええ。現実を見てください──
ベル
小銭……?
リリルカ
税金を納めにいってきたのですが
これが納税後、リリ達に残された最後の命銭……。
リリルカ
泣いても笑っても、
これでしばらくはやりくりするしかないんです!!
春姫
こっ、これだけでございますか!?
これでは一尾のめざしを、みなで分け合う事態に……!
命
タケミカヅチ様と、オラリオに来たばかりの時を思い出しますね……
ならば早急にダンジョンに潜り、稼ぎに行かなければ。
ヴェルフ
悪い。ちょうど全員分の装備品の手入れ中なんだ。
すぐってワケには……。
ベル
じゃ、じゃあ……ホントにこのお金だけで
しばらく生活するしか……。
ヘスティア
まぁまぁ。ピンチはビッグチャンスをアウトプットするための、
ピボットタイミング! そう、慌てることもないさ。
ヘスティアファミリア団員
……?
ベル
神様? あの……どうしたんですか?
何か、喋り方が変ですけど……。
ヘスティア
心配なんてポジティブなマインドセットで、ウィンウィンさ!
緊急会議で、ボクらの未来をイノベーションしようじゃないか!
2話
ヘスティア
――ま、要するに投資ってやつさ!
大船に乗ったつもりでボクに任せておけばいい。
リリルカ
今の状況、分かってるんですか? いくら神様だからって、
おバカなことばかり言ってると張っ倒しますよ?
ヘスティア
リスクを負わなきゃリターンも得られない!
ピンチだからこそ未来にベッドさ! 起こそうぜ、ムーブメント!
リリルカ
訳の分からないノリで突っ切ろうとしないで下さいっ! ていうか、
なんなんですか、その喋り方! 胡散臭いことこの上ないです!
春姫
えぇっと……投資と仰りましても
いったい何に……?
ヘスティア
そこは任せてもらって大丈夫さ!
今、神々の間でガチホがマストの銘柄があるんだ!
ヴェルフ
ちょっと待ってください! 俺達の生業は冒険者でしょう!?
より稼ぐためには装備品の充実が最重要です!
ヴェルフ
もっと下の階層でも戦えるよう、ベルの装備も新調したり、
鍛冶場の設備も整える方が、後の稼ぎに繋がりますよ!
リリルカ
アホなんですか!?
装備品ができる前に食い詰めますよ!?
命
いやいや! 自分は、各種温泉の素の配備を所望します!
効果的な休養があってこそ、最大の力を発揮できるというもの。
リリルカ
ナンデ!?
春姫
でしたら春姫は特大『きんぐさいず』のベッドを……。
リリルカ
なんで、なけなしの金で『何を新調するか』って話に
なってるんですかぁ!? いますべきはやりくりの方でしょう!?
春姫
あの……その……例え、今宵ベル様がお求めになったとしても……
しっかりお応えできるようにと……。
ヘスティア
そんなの絶対許すわけないだろおおおおおおお!
ここは処女神の派閥だぞぉ! オミット&オミットだぁああああ!!
春姫
こんっ!?
リリルカ
あー、もう……。いい加減、現実的なところに
話を戻しますよ? ねぇ、ベル様――
リリルカ
──あれ、ベル様?
命
なにやら議論に白熱する皆に食べて貰いたいものがあると、
先程、席を外しましたが……。
ベル
──あの。みんな、これを食べてください。
なんだか今日も、すっごい蒸し暑いですし。
命
おおっ! かき氷ですか!
ヘスティア
さっすがベル君。気が利くねぇっ!
君こそボクらのグローバル・イノベーターさっ!
ヘスティア
──ほらほらサポーター君も、ひやっこいのを食べて、
一旦クールダウン、クールダウン!
リリルカ
その妙に癪に障る喋り方、いい加減やめてください。
……はむ。かき氷は、おいしいですが……
リリルカ
みなさん、もっと真剣に考えてください。ここで無駄な浪費を行えば、
資金は尽きダンジョンに向かう準備さえ満足に整えられなくなります。
リリルカ
そうなれば不十分な状態でダンジョンに潜ることになり、
最悪の事態さえ……。
ヘスティア
リスクマネジメントの徹底があってこそのイノベーション、か。
うん。君の言うことは、もっともだ。
ヘスティア
だからこそ! だからこその投資! インヴェストメント!
この小銭を労せず短時間で金貨の山に変えるのさ!
ヘスティア
投資先は『モウカール鉱石』!!
やり手の投資家の間でしかまだ知られていない、最もホットな商材だっ!
リリルカ
あ、怪しすぎてどこからツッコんでよいのやら判断がつきません……!
ヴェルフ
ああ、聞いたこともない鉱石だ。
ヘスティア
ふっ……鍛冶師のヴェルフ君さえ知らないスペシャルな鉱石。
だからこそ儲けられるってエビデンス。
ヘスティア
オラリオのメイントレンドの商材といえば魔石!
だが、メイントレンドが故に売値のアップダウンは、ほぼない。
ヘスティア
だがこのモウカール鉱石、とある情報筋から入手した話によると
一か月後には数百倍の値段に高騰することが確定しているんだ!
ヘスティア
これぞボラリティの極地!
百倍のレバレッジで数万倍だぜ!
ベル
あっ、そういえばこないだ商業系のファミリアの神様が来て、
そんな話をしていたような……。
ヴェルフ
ああ。あの無茶苦茶、怪しげな神様か?
ヘスティア
あ、あいつは信用できる神なんだいっ! 最高の儲け話だろ!?
モウカール鉱石の上昇トレンドに乗っかれば億り人も夢じゃない!
ヘスティア
魔石と言うメイントレンドの影に隠れた、モウカール鉱石という
コモディティ投資をポートフォリオすればFIREできるんだよ!!
春姫
もしかして、この変わった喋り方も、
その神様の影響でしょうか……?
命
以前より儲け話に弱いところがあると思いましたが、
このような胡乱な話にまで──
リリルカ
──却下です!
そんなヴァリスをドブに捨てるような真似、絶対に許しません!
ヘスティア
絶対、大儲けできるんだーーーーいっ! みんな、
ボクと一緒にこのビックなブルーオシャーンに乗っかろうぜぇ!
春姫&命&ヴェルフ
………………。
ヘスティア
なっ、なんだいその「どうすんのこれ?」みたいな目は!
ベル君、君なら分かってくれるよね?
ベル
いや……さすがに……。
ヘスティア
なぁっ!? き、君までボクを否定するのかい!?
これが革命を起こすカリスマイノベーターの孤独というヤツかぁ!!
リリルカ
露骨な詐欺に引っ掛かりそうなヘスティア様に、
みんな呆れているだけです!
ヘスティア
なにをー! 主神命令で、このヴァリスはモウカール鉱石への投資に
全力ベッドで決定! 異論は認めなーーーいっ!!
リリルカ
例え神意に反しようとも、ファミリアのため、
リリはとことん抗いますっ! ヘスティア様のおたんこなすーーっ!!
ヴェルフ
……どうすんだこれ。
ベル
……うまく神様も納得できるような方法が
あればいいんだけど……。
ベル
──あれ? これって?
ヴェルフ
ああ。オラリオサマーランドのチラシか。
なんか今年は、特別な催しをやるみたいだぞ。
ベル
特別な催しって……。
ベル
っ……!! これっ!!
これならっ!
ヴェルフ
ん? どうしたベル?
ベル
あの……神様っ! お話があるんです!
ヘスティア
ん……? なんだい?
ベル
こうやって話し合っても
なかなかお互い納得できないと思うので──
ベル
『勝負』しませんか? この……オラリオサマーランドの
新しい催しで! 派閥の未来を賭けて!
3話
アイズ
【ヘスティア・ファミリア】の……内部分裂?
ティオナ
うん。理由はよくわかんないけど、ヘスティア様大激怒で、
眷族をみんなやっつけてやるーって騒いでるんだって。
レフィーヤ
それ……なにか大変なことになりそうなんですけど……
せっかくの催しなのに……。
ロキ
まー、ええんちゃう。
本気でやる奴らがおった方が盛り上がりそうやし。
ロキ
せいぜい跳ね回って、とことんやりあえばええ。
ほれ──噂をすれば。来おったで。
ベル
『水鉄砲』……
神様達の武器……うまく使えるかな。
リリルカ
リリは少しだけ、前に使ったことがありますから。
何か、わからないことがあったら聞いてくださいベル様!
命
しかし……この『ぷーる』は男子禁制ではありませんでしたか?
かつてベル様と忍び込んで、とんでもない目にあった記憶が……。
ベル
あはは……あの時は、みんなに迷惑かけてごめんね……。
リリルカ
ヘルメス様や男神様達が土下座外交を重ね、
しぶしぶロキ様もお認めになって、解禁されたとか。
ヴェルフ
まぁ、泳ぐわけでもないし……
俺は水着じゃなくても問題はなさそうだな。
春姫
あの、それでヘスティア様は……?
ベル
なんか、準備があるから
待っててくれって言ってたけど──
ヘスティア
──ふっ、主役は遅れてくるもの、だろ?
ヘスティア
それで、この勝負の勝者が、残った資金の使い道を
決められる……ってことで本当にいいんだね?
リリルカ
もちろんです。というかなんでそんなに、
ベル様達相手に自信満々なんですか……。
ベル
あの……本当に、不利な条件なしで大丈夫なんですか?
さすがに恩恵を授かっている僕達と神様じゃ勝負に……。
ヘスティア
ふふん。ボクを舐めるんじゃあないよ。君達にとって、
ほぼ未知の銃撃戦ってだけで十分ボクにアドバンテージはあるさ。
ヘスティア
それに……くくっ!! ふははははははははっ!!
今日は君達に、絶望のビジョンをコミットしてみせよう!
春姫
はわわわわっ!?
ヘスティア様が『闇堕ち』してしまいました!?
リリルカ
もう……好きにさせときましょう。
とにかく勝てば、ファミリアの資金は守れますし。
ヘスティア
さぁ、始めようぜっ! ボク達の未来を賭けた──
『ウォーターガン・バトルロワイヤル』をっ!!!
ヘスティア
ヘイッ!! イブリ・アチャー君っ!
イカした実況で、ボクの勝利を彩ってくれたまえ!
イブリ
本日は、道を歩いていたら突然神様に捕まって、連れて来られた
喋る火炎魔法【火炎爆炎火炎】!!
イブリ
イブリ・アチャーが、
アチチな夏に燃え盛る、熱戦を実況させていただきまーーーす!
ベル
いっ!? 実況!?
リリルカ
あの人、【ガネーシャ・ファミリア】の?
ただの身内の争いで、なに連れてきちゃってるんですか!?
ヘスティア
今日、ボクは……伝説になる。
そんな伝説の舞台の盛り上げ役としちゃあ適役だろ?
ヘスティア
さぁ──開戦の時を、告げてくれ! スタートアップ!
革命的パラダイムシフトを起こして熱くFIREしてやるさ!!
イブリ
それでは今から一分後っ! バラバラの場所に散ったところで、
勝負を始めさせていただきます!!
イブリ
ルールは簡単。水鉄砲に入ったペンキを相手に当てたら、
当てられた相手は『ヒット』で即退場!
イブリ
最後のひとりまで残った人が勝ちとなる乱戦です!
あくまでも近接戦ではなく、銃で撃ち合って戦ってくださーい!
命
それでは、散りますか。
慣れない得物での勝負……一体どうなることやら。
春姫
こ、この勝負に勝てば『きんぐさいず』のベッドで
ベル様とのあんな夜やこんな夜が……?
春姫
はわわわわわっ!
はっ、春姫はどうなってしまうのでございますか~!!
リリルカ
どうしようもないエロ狐ですね……
まっさきにリリが潰す必要すら感じます……。
リリルカ
まぁ──邪魔する者は、誰であろうと撃ち抜いて、
絶対に、ファミリアの資金は守ってみせます。
ヴェルフ
妙な話にはなったが……こうなった以上
手加減はしないからな、ベル?
ベル
うん。勝った人が全部決める……
恨みっこなしだね!
ヘスティア
うおおおおっ!! イノベーションがキャッシュフローして
魂がFIREするううううううっ!!
ヴェルフ
……さすがにヘスティア様もあのままじゃ困るしな。
それじゃ、行くか。
ベル
お互い、頑張ろう!
イブリ
燃え盛る真夏の太陽が見守る中っ!!
譲れぬ意地と熱き想いを賭けた眷族達の戦いが、今始まるぅっ!!
イブリ
それでは──『ウォーターガン・バトルロワイアル』!
開始ぃいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!
4話
命
……さて。『ばとるろわいある』とやらを、
行わなければですが。
命
周囲は全て敵……とするのであれば、
誰にも見つからず、耐え忍ぶのも策のひとつ……。
命
水遁の術で水中に潜み
敵の数が減るのを待てば――
春姫
おろおろ……おろおろ……
命
(おろおろなさってるー! しかも声まで出して!?)
春姫
はぁ……どうすればよいのか……
皆様が敵……など、まさに私は狩られるだけの狐……。
春姫
ひとたび見つかってしまえば、歴戦の皆様に
あんなことやこんなこと……ましてや、あーれーなことも……!
春姫
……ああ! いけません、ベル様!
そんな……ご無体なぁぁ!?
命
(大声で寸劇を始められたぁ!?
このままでは自分の居場所まで……!)
命
春姫殿ぉ!
春姫
みみみ、命様ぁ!?
もしや命様もご無体なあーれーを……!?
命
違いますっっ! というか声を抑えて下さい!
不用意に目立ちすぎては標的になるだけです!
春姫
え……命様、私を狙っていたのでは……!
命
……自分にも目的はあります。
ですが、この勝負の最大の肝は『ヘスティア様に勝たせぬこと』。
命
皆様との勝負はその後でもと……。
さあ春姫殿。今は自分と一緒に水中に潜んで……。
ヘスティアの声
成りあがれ! FIREボルトーーーーーーーーーーーーッ!!
春姫
ここーーーーーーーーーーーーんっ!?
命
なっ!? 春姫殿!?
イブリ
おおっとっ! 乱戦らしからぬ、
極東娘のやり取りから一転、突如の急展開ダァァァ!!
イブリ
突然、ペンキ塗れになった妖艶なる狐人、
サンジョウノ・春姫! しかし襲撃者の姿はどこにもありません!
命
殺気はすれども姿は見えず……これは一体!?
ベル
なんとか、神様だけは止めないと……。
ヴェルフ
──おう、ベル! お前もこっちに来てたのか!
ベル
ヴェルフ!
ベル
良かった……まだ、誰にも会えてなくて。
ヴェルフは神様を見かけた?
ヴェルフ
ん……? なんだ、気にしてるのはヘスティア様だけか?
ってことは共闘するつもりなのか?
ベル
うん。なんていうか、神様が変になっちゃってるから
僕らが勝てば、元に戻ってくれるかなって……。
ヴェルフ
そうか……。
ヴェルフ
……だがなベル。
そいつは少し違うんじゃないか?
ベル
えっ……?
5話
ヴェルフ
──ベル。ヘスティア様は、お前が提案した勝負を、
真正面から受けてくれたよな? 少しも、躊躇うことなしに。
ベル
う、うん。
望むところだ……って。
ヴェルフ
恩恵を受けた俺達に対して、だぞ。
自分の不利も承知で、この勝負を受けたんだ。
ヴェルフ
だったら、俺達が『ばとるろわいある』とやらを無視して
共闘……っていうのは違うんじゃないか?
ベル
えっと……神様は『なんでもあり』って……
ヴェルフ
だからって多勢に無勢で勝って、気分がいいか?
真正面から向かってくるヘスティア様ひとりに対して。
ベル
っ!?
ヴェルフ
甘いって思われるかもしれないが……
俺は正々堂々とやろうと思う。それに――
ヴェルフ
こんな機会でもなければ、ベル……
お前と戦うことなんかありそうにないからな。
ベル
えっ……?
ヴェルフ
お前が急速に強くなってるのは分かってる。
だが、俺達だってそれなりに強くはなってるつもりだ。
ヴェルフ
お互い敵になって、そいつを確かめ合う……
滅多にない、いい機会だろ?
ベル
……うん。
ヴェルフ
――なら始めるか。
ベル
勝負方法は?
ヴェルフ
恨みっこなしの早撃ち勝負。
このヴァリスが、地面に落ちた瞬間に撃ち合うってのはどうだ?
ベル
わかった。全力でいくから。
ヴェルフを倒して、僕は神様のところに行く!
ヴェルフ
ああ、上等だ。それじゃ──始めるぞ。
ヴェルフ
………………。
ベル
………………。
ヴェルフ
──それっ!!
リリルカ
なぁに遊んでるんですかーーーーーーーーーっ!!!
ヴェルフ
ぶはぁっ!?
ベル
リ、リリ……?
ヴェルフ
な、なんで……俺達は、男の勝負を……。
リリルカ
ファミリアの存亡がかかったこの時に、
男がどうのと遊んでいるヴェルフ様が悪いんですっ!
リリルカ
まったく……なにが【不冷】ですか。
そこのプールで頭でも冷やしててください、えいっ!
ヴェルフ
ぬわっ!? ふざけーーーーー──
イブリ
男と男の勝負さえも許されないっ! その過酷さこそ
真夏の狂乱の勝負、『ウォーターガン・バトルロワイアル』!
イブリ
突如現れたリリルカ・アーデの一撃によって、
魔剣鍛冶師ヴェルフ・クロッゾはあえなく脱落ぅうううううううっ!!
リリルカ
ほらっ、ベル様。ヘスティア様を探しに行きますよ。
ベル
え、えっと……でも共闘は……。
リリルカ
アホなのですか! あのヘスティア様が、何の勝算もなく
こんな不利な勝負をする訳がありません!
リリルカ
あれでも一応神様なんですから、想像の二段くらい斜め上の何かを
仕掛けてくると想定し、警戒するべきです!
ベル
は、はい……。
リリルカ
──ヘスティア様っ! 首を洗って待っていてくださいっ!
リリがこの手で、その狂った野望を止めてみせますから!
命
不覚……まさか……こんな……
命
ぐっ……。
ヘスティア
くくっ……ははははっ……! 恨みっこなしだぜ、命君っ!
全ては皆のサステナブルでオーガニックな未来のためさ!
ヘスティア
さぁ! ボクの、ベストプラクティスかつドラスティックなメソッドで、
ヘスティア・イノベーションを起こしてみせようじゃあないかっ!!
6話
リリルカ
どうですか、ベル様?
あちらにヘスティア様らしき人影は……?
ベル
いない、かな。
神様、どこにいるんだろ……。
ベル
あっ、あれ……!!
命
………………。
リリルカ
命様っ!? これは……!
命
リリ殿……気をつけてくださ……い……
ヘスティア様は……姿を──
ロキ
『ヒット』された死体がベラベラ喋ったらあかん。
速やかに退場してもらうでぇ。
アイズ
うん……よいしょ。
命
ちょーーーーーっ!!
どうかおふたりともご健闘をーーーーっ!!
ベル
命さんーーーーーーっ!!
リリルカ
……眷族の中で、
ベル様に次ぐ敏捷を誇る命様がやられた?
リリルカ
そんなの……
よほどの不意でも突かれなければ……
??????
………………。
ベル
そういえばさっき
命さん『姿を』って言ってたよね?
リリルカ
姿……? もしかして……だとしたら……。
??????
………………。
リリルカ
──はっ!? いけませんっ!!
ベル様っ! プールに飛び込んでくださいっ!
ヘスティアの声
喰らえー―!!
イノベーションFIREボルト!!!
ベル
(今、神様に撃たれた?
当たらなかったけど……これって……!)
リリルカ
(詳しい話は後です! しばらくしたら一緒に──)
ヘスティアの声
コミットォ……!
ヘスティアの声
スキームゥ……!
ヘスティアの声
イノベーションン……!
ヘスティアの声
いつまで水の中に潜ってるつもりだい?
早くボクと一緒に、億り人になってFIREしようぜぇ!
リリルカ
行きますっ!!
ベル
う、うん!
リリルカ
さぁ、リリを恋人のように優しく抱き寄せて、
そのまま全力であちらへ向かってください!
ベル
いっ!? なんで!?
リリルカ
これは私利私欲などでは全くない、
正真正銘、立派な作戦ですっ! さぁ早く!
リリルカ
あっ! 君は、なんて美しいんだ。真夏のあばんちゅーると
洒落込まないかい、まいはに~って囁きもお願いします!
ベル
だからなんでぇ!?
リリルカ
いいから早く!
ベル様は、リリの作戦を疑うんですか!?
ベル
き、君はなんて美しいんだ……
真夏のあばんちゅーるとしゃれこまないかい、まいはにー?
リリルカ
はいっ! お受けいたしますベル様っ!
イブリ
可憐な小人族の少女を抱きしめて、
仲睦まじい恋人のような様相で全力疾走のベル・クラネル!
イブリ
ついに残った3人の愛と憎しみが渦巻く最終章の始まりだァ!
勝利を手にするのは、果たして誰か、誰なのかぁああああ!!
ヘスティア
ハッ? はぁああああああああああああああ!?
ドサクサに紛れてなにやっちゃってんだいサポーター君!
ヘスティア
ベル君と、あんな羨ましいことを……!!
君には、特別ハイエンドなオシオキが必要なようだねぇ!
7話
リリルカ
ベル様、あちらです!
ベル
ここってロキ様のプライベートプール、だよね。
勝手に入っちゃっていいの?
リリルカ
多分、大丈夫です! 『ばとるろわいある』の規約には、
プールの中ならどこで戦ってもいいとありましたし。
リリルカ
ここなら四方を壁で囲まれていて、
不意打ちに対応しやすいですから。
ベル
でも……あんな見えないとこから撃たれたら……。
リリルカ
手は考えてあります。まずは、決戦の舞台を整えなければ。
どうかベル様、お手伝いくださいませ!
リリルカ
えーいっ! それそれそれそれーっ!!
ベル
えっ!? リリ……!?
ちょっと、なにやってるのっ!?
リリルカ
ふぅー……ふぅー……
これくらいやれば、十分でしょう。
ベル
いや十分って……そこら中ペンキ塗れにして、
絶対怒られるよこれ!?
リリルカ
その時は、あの極東の『土下座』でも、
徹夜で掃除でもなんでもしてやります!
リリルカ
今は、とにかく勝つため──ファミリアの未来を守るため、
これは、絶対に必要な『布石』なんです!
ベル
『布石』……?
リリルカ
後は、そうですね。先程の続きをいたしましょうか?
リリルカ
ベル様っ、
リリに真夏のあばんちゃーるを味わわせてくださいっ!
ベル
えっ?
リリルカ
いつぞやの夏に、「やったなー! そぉーれ!」と水をかけあう
プールデートの定番は行いましたので。
リリルカ
今度は、そうですね……プールデートでは、
愛する男女が日焼け止めを塗り合うというお約束があるそうです。
リリルカ
──はい、ベル様! 恋人に囁くような甘い言葉を囁きながら、
リリの身体に、この日焼け止めを塗ってください!
ベル
だからなんでぇ!?
というか、いきなり難易度上がりすぎてない!?
リリルカ
作戦ですっ!! 僕は、真夏の太陽から君の柔肌を守る騎士さ、
最高の思い出を一緒に作ろうあいらびゅ~! さぁ、復唱を!!
ベル
ぼ……僕は真夏の太陽から君の柔肌を守る騎士……。
ベル
最高の思い出を一緒に作ろうあ、あ、あ、あいら──
リリルカ
やんっ。ベル様、くすぐったいです。
ベル
な、な、な、リリッ!? やっぱ無理ぃ──
ヘスティアの声
なぁあああああああああああにやってるんだぁああああああ!!
ベル
神様!?
リリルカ
いましたっ! あそこです!
くらええええええええええーーーーーーーっ!!
ヘスティア
ぬわああああああああああっ!?
あぶなぁあっ!
ヘスティア
な、なんでボクの居場所がわかったんだ!?
リリルカ
大方それは、リバースヴェール──
フェルズ様あたりに借り受けた透明化の魔導具でしょう?
リリルカ
ならば姿は見えなくとも消えている訳ではない。
リリルカ
……ヘスティア様。地面に撒かれたペンキに
ペタペタと足跡がついているのに気が付きませんでしたか?
ヘスティア
ボクの足跡がエビデンス!? 奪われたイニシアチブ!?
くっ……やるな、サポーター君!
リリルカ
ヘスティア様がおまぬけなだけです!
案の定、ベル様とイチャイチャしてたら姿を現して……。
リリルカ
あの変な喋り方、聞いてるだけで疲れますし……
ベル様、とっとと片をつけてしまいましょう?
ヘスティア
ベル君っ! あの日あの時、オラリオの街角で出会ってから、
僕達は二人三脚で今日まで歩いてきた……。
ヘスティア
君とボクはもはや一心同体! 永遠の運命共同体!
そんなボクを捨てて、サポーター君に味方するってのかい!?
ベル
え、えっと。はい……さすがに今回は、
神様が勝ったら、神様も不幸になってしまうと思うので……。
ヘスティア
ぐはあぁぁぁ……! なんで分からないんだぁ!
大儲け確実のサジェスチョン! 理解できない君は、クエスチョン!
ヘスティア
ならば、こいつ食らって、考え直すんだ──
プレミアムイノベーションFIREボルトーーーーーッ!!!
リリルカ
ふふん。
姿さえ見えてれば、そんなもの当たる訳が──
ベル&リリルカ
ええっ!? えええええええええええええええっ!?
8話
リリルカ
きゅ~……。
イブリ
なんとおおおおっ!! 追い詰められたかに見えた神ヘスティア!
しかし逆転の一撃を放ち、リリカル・アーデを迎撃っ!
イブリ
【ステイタス】を持つ冒険者達を次々と倒すその様は武神の如し!
不滅を司る【燃え続ける聖火】の名は伊達じゃなああい!
ロキ
あいつら、こないなとこに逃げ込んだと思ったら、
しっちゃかめっちゃかしおって……後でみっちり掃除させたるからな。
ティオナ
あははっ! なんだかたのしそ~。
レフィーヤ
アイズさん! あそこを!
ベル・クラネルが追い詰められています!
アイズ
ベル……。
イブリ
あわや難を逃れたベル・クラネルだが、その背は壁っ!!
もう逃げ場はないぞぉおおおおおおっ!!
ヘスティア
さすが、ボクのベル君だね。今の一撃を避けるなんて……。
ベル
なっ、なんですか今の!?
ペンキが爆発して……。
ヘスティア
ベル君。エビデンスを
ASAPに共有するのはビジネスの基本さ。
ベル
なに言ってるのか分かりませんっっ!?
ヘスティア
これからボクのビジネスの右腕になってもらう君に……ああ!
コンフィデンシャルなノウハウをレクチャーしてあげようじゃないか!
ヘスティア
ボクの領域に、上がってくるんだ! ブラッシュアップ!
ベル
ペンキが爆発した説明はなしですか!?
ヘスティア
ああ……これはフェルズ君に水鉄砲を改造して貰ったんだ。
その名も『革新水鉄砲』!
ヘスティア
チャージした後ぶっ放せば辺り一面、逃げ場がなくなるほどの
爆発を起こし標的をペンキ塗れにする優れものさ。
ベル
ただのズル!?
ヘスティア
なんとでも言うがいいさっ!
けど、もう借金塗れのダメ神なんて言わせない!
ヘスティア
これは……モウカール鉱石で大儲けして、みんなを幸せにして、
ベル君はボクに惚れ直すって最強のメソッドなのさ!
ベル
ええっと……そもそも借金塗れのダメ神なんて
思ってないんですけど……
ヘスティア
くぅっっ……! そ、そういう籠絡手段に出てきたか!?
まさか君がマーケットを牛耳るクジラだったとは……!
ベル
まったく言葉の意味は分かりませんけど、
とにかく、いつものヘスティア様に戻ってください!
ベル
お金のことは、みんなで考えれば
きっとなんとかなりますから!
ヘスティア
くぅっ……そんなまっすぐな目で見るんじゃない!
ボクは……ボクは、モウカールでモウカールするんだ!!
ヘスティア
行くぞっ! ベル君……!
ここで勝負を決めてやる!
ヘスティア
スタートアップでスケールアップ……
ポートフォリオで結果にコミット……
ヘスティア
狙えよ、ブルーオーシャン……
弾けろ、モウカールコモディティ……
ヘスティア
巻き起こせよ、イノベーション!
ボラリティの高さこそドリーミンッッ!
ヘスティア
スケールアップでキャピタルゲインで億り人でFIREして──
ベル
か、神様……!!
ヘスティア
このボクを敵に回した段階で、
君達の敗北は、最初から決まっていたのさ。
ヘスティア
ふふっ、ははははははははっ! さぁベル君!
君を倒して──ボクはレバレッジマックスの夢を掴むんだぁ!
ロキ
ん……ドチビがさっきから言ってるモウカールって鉱石……
ギルドに詐欺で捕まった、あの妙な喋り方しおった神のヤツか?
レフィーヤ
あれですか。価値が百倍になるとそこら中のファミリアに持ちかけて
実際、ただの色を塗っただけの石ころだったって言う……。
ティオナ
でもさー。そんなの引っ掛かる人いるのー?
そんなのあたし達でも引っかからなそうだよねー、アイズ。
アイズ
そう……かな?
ロキ
あないなアホみたいな詐欺、引っかかる奴、
このオラリオにおらんと思っとったが。まさか──
ヘスティア
──ふぇっ? 詐欺?
ベル
神様っ! 聞きましたよね!?
もう僕達が戦う理由なんて……!
ヘスティア
だ、だけどっ!? こいつは突貫で作ったものだから!
一度チャージしたら絶対ぶっ放さないとダメだって──
ベル
どんな欠陥品ですかぁ!?
ヘスティア
そ、それにロキ達が言ってるだけだし! イノベーションを起こす
スペシャリストは世間に理解されないものだから……。
ロキ
あほんだら。ならギルドでモウカール鉱石で大儲け~とか
言ってみいや。ガチで心配されるか爆笑されるかの二択やで。
ヘスティア
そ、そ、そ……そんな……!
いやいや、ボクは億り人でFIREしてぇ……。
ベル
神様ぁぁぁっっ!?
イブリ
ギラギラと煌めく真夏の太陽が見守る中、
ついにファミリア同士の激しい死闘に決着がつく! 勝者は──
イブリ
ベル・クラネル!!
神ヘスティアは、あえなく自爆しペンキ塗れだぁぁぁっ!
ヘスティア
ふぎゅぅぅぅぅ~~……。
ベル
か、神様、大丈夫ですか!?
盛大にペンキ爆発しましたけど!?
ヘスティア
あぅぅ……お金も希望もなくなった……
ロスカットを見誤ったぁ~……。
ベル
しっかりしてください、神様!?
ヘスティア
資金がショートぉ~……
デフレスパイラルがぁ~……。
ベル
ほ、ほら、お金なら、みんなで稼げばいいですし。
ヴェルフ
そうですよ。むしろ騙される前に気付けたんだ。
失ったものもないし儲けものじゃないですか。
春姫
そうで御座いますね、プールで涼めて
楽しゅうございましたし。
命
ええ。なんとも、いい息抜きになりました。
心機一転、ダンジョン探索に励めそうです。
ヘスティア
みんなぁ……。
リリルカ
まったく……ヘスティア様はリリたちへの
信用が足りなさすぎます。
リリルカ
ポンコツ女神に頼らなくても、派閥の
やりくりなんて、こちらでなんとかしますから。
ベル
……だから神様。安心して帰りましょう?
変な儲け話で喋り方まで変わる方が、僕達も心配になりますから。
ヘスティア
ベルくぅん……ああ、ボクには君達がいるのに……
最高の宝物があるのに。自分を見失って、なんてバカなこと……。
ヘスティア
ごめんよぉ、みんな! ボクは……ボクはぁ……!!
リリルカ
――で、ベル様。勝者の権利ですが、
残った資金の使い道は、いかがなさいますか?
ベル
あ、鍛冶の設備投資でも、貯金でもいいと思うんだけど……
その前に、ちょっとだけ贅沢いいかな?
ベル
仲直りの記念に。
この後、みんなでご飯に行きたいなって。
リリルカ
まったく……しょうがないですね。それくらいなら……
なんにしても、とりあえず身体を洗ってですが。
ベル
あっ、本当だ──
春姫
うふふ。みんな仲良く、ペンキ塗れでございますね。
命
ええ。ヘスティア様に、見事にやられてしまいました。
ヴェルフ
まぁ俺は、リリスケにだけどな……。
ヘスティア
それじゃみんなでお風呂に入ってご飯に行って……!
???
待てや、コラ。
ヘスティア
へ?
ロキ
サマーランド、ペンキ塗れにしおって!
このまま帰す訳ないやろぉ!
ヘスティア
あ……。
ロキ
綺麗さっぱり! シミひとつ残らんようになるまで
自分らには掃除してもらうからなっっ!
ヘスティア
み、みんな! 逃げ――!
ロキ
逃がすかぁっっ!
追えぇぇぇぇぇぇ!!
ヘスティア
ロキも大団円にコミットしてくれたっていいじゃないかぁぁぁぁ!!
END