未公開シナリオ
「受付嬢のドキドキ サバイバルピクニック」
1話
ベル
あの……どうでしょうか?
エイナさんに出してもらった宿題……。
エイナ
──うん。中層以降のモンスターの生態……
良く調べて、まとまってると思うよ、ベル君。
ベル
ほっ……。
エイナ
あ、でも口酸っぱく言うようだけど……。
ベル
わ、わかってます! 冒険者は冒険しちゃいけない、ですよね。
探索は出来るだけ、安全第一で……!
エイナ
ほんとに……? 約束だからね?
ちゃんと無事に帰ってくるんだよ、ベル君。
ベル
はいっ!
それじゃ、行ってきまーす!
エイナ
……ふふっ。
エイナ
『学区』を卒業して、
管理機関職員として働きだして五年──
エイナ
冒険者の生死に関わる仕事だし、つらいことも少なくないけど、
彼らを支える仕事は、やりがいもあるし、とても重要だと思う。
エイナ
だから、どんなに忙しくても不満はなかったし、むしろもっと頑張って
冒険者の役に立たなきゃって思ってる……けど──
エイナ
本当に……来ちゃったんだ……。
エイナ
オラリオから遠く離れたセオロの密林で、
『そろきゃんぷ』……。
エイナ
なんか、結局ミィシャにうまく乗せられちゃった気が
しなくもないけど──
ミィシャ
えっ!? エイナ……
有休、全然使ってないの!?
エイナ
うん。仕事が山積みで……
休めそうな日がなかなかなくて。
ミィシャ
いっつもエイナに頼りっぱなしな私が言うのもアレだけどさ。
次から次へとエイナに仕事を放り投げてるみんなが悪いんだし──
ミィシャ
そんなの気にしないで、休めばいいの!
これだけ職員がいるんだから、誰かがなんとかするってば!
エイナ
そこは『私が』とは言わないんだね……。
ミィシャ
そうでなくても最近、弟君が来たときとか妙にボーッとしてるし。
絶対、疲れてるよ! 休むべき、うん!
エイナ
あー……えっとそれは……。
ミィシャ
ん? それは……?
エイナ
それは……そうそう! ベル君、Lv.4になったでしょ?
色々、考えなきゃいけないことも多くて。
エイナ
それに休むって言っても
休んでしたいこともないし……。
ミィシャ
ダメーーーーーー!!
ミィシャ
一度きりの人生だよ? 仕事だけで人生終わっちゃっていいの?
踏み出さないと何も始まらないんだよ?
ミィシャ
エイナは、よく冒険者は冒険しちゃいけないって言うけどさ!
女の子は、時には冒険しなきゃいけない時だってあるの!
エイナ
え、ええ~~……。
エイナ
それで、初めての『きゃんぷ』……。
服とか選んでたら、つい楽しくなって色々揃えちゃったけど。
エイナ
えっと……とりあえず野営用の天幕設営から、だよね。
確か、このペグってのを刺して、支えにするんだっけ。
エイナ
できたーーーーーーーっ!!
エイナ
ふぅ……ちょっと本格的なのに、しすぎたかな?
エイナ
いや、でも大雨とか降るかもしれないし。
これくらいしっかりしてないと危ないよね。
エイナ
あっ──
エイナ
──風、気持ちいいな。
エイナ
ベル君、今頃どうしてるんだろ?
エイナ
例の……黒いミノタウロスと戦った時の怪我も治ったみたいだし。
またダンジョンで、無茶してるのかなぁ?
エイナ
ベル君!
ガネーシャ・ファミリア団員
待ってください、危険です!?
中で、凶暴なミノタウロスが……!
エイナ
だって、ベル君が──
ガネーシャ・ファミリア団員
ちょっとっ!?
エイナ
っ……!? バベルの中……!
ベル
嘘だ……負けて良かったなんて嘘だ……
僕は、勝ちたかった……っ……!
エイナ
ベル君……。
エイナ
あの時のベル君……見てるだけで胸が締め付けられて……
なんだろ。『男の子』じゃなくて、『男の人』っていうか……。
エイナ
っ……!? あっ、いやっ!? 違うからっ!
エイナ
そりゃ……最近、ドキっとさせられることが多かったけど。
ベル君は弟みたいなものだし! そーいう子に特別な感情なんて──
???
……エイナさん?
エイナ
ああ、ちょっと待って!
すぐ落ち着くから……ごめんね……
エイナ
ベル、くん――?
ベル
やっぱりエイナさん。
エイナさんも来てたんですね。
エイナ
えええええええええええええええええーーーーーーっ!?
2話
命
は、春姫殿!? 何故、このようなところで
水着姿になっているのですか!?
春姫
野山で遊ぶとなれば、幼少の頃のように川遊びなどと……
いえ、それでベル様とキャッキャウフフなどとはー!
命
川に着いてから着て下さい!?
ヴェルフ
まぁ……虫に刺されないようにな。
エイナ
──【ヘスティア・ファミリア】で、キャンプ旅行ですか?
ヘスティア
なんか最近、オラリオで流行ってるだろ?
で、このところ色々大変だったし気分転換にって。
エイナ
ベル君……もうLv.4、ですよね?
よく外出許可が下りましたね。
ヘスティア
その辺りは抜かりないさ!
ミアハに冒険者依頼を出してもらったのさ!
ベル
セオロの密林でミアハ様に頼まれた素材を採取して、
そのついでに、少し寄り道くらいなら大丈夫みたいで。
エイナ
ああ……今のみなさんなら、地上のモンスター相手の
冒険者依頼はすぐ終わりそうだから……。
エイナ
──ふふ、ベル君なんて、キャンプ用の服まで着て、
張り切っちゃってるね。
ベル
あはは……。
ヘスティア
似合うだろう? ベル君のかわいさと、最近メキメキ上がってきた
カッコよさを引き立たせるボクプロデュースの逸品さっ!
リリルカ
そう仰るエイナ様こそ、バッチリと決めた服装で、
何故このようなところに? しかもひとりで。
エイナ
あ……私も、気分転換に。『そろきゃんぷ』って言って、
女性ひとりで『きゃんぷ』を楽しむ人も増えてるみたいで。
リリルカ
なるほど──つまりギルドのツテを使ってリリ達の行方を探り、
偶然を装って、ベル様の前に現れたワケではない、と。
エイナ
ふぇっ?
リリルカ
なにやらこのところ、リリの【泥棒猫殺し】に
ビビビッと反応がありまくりでして!
ベル
なに!? その新スキルみたいな能力!?
リリルカ
失礼は承知で……ベル様のお目付け役として聞かせていただきます。
エイナ様、どうなんですか? 本当に、偶然なんですか?
ベル
ちょっ、リリ……!?
リリルカ
ベル様は引っ込んでてくださいっ! この普段のリリでは
醸し出せないエイナ様の姉属性は、危険度Aの爆弾なんですーっ!
エイナ
ちちちちっ、違いますよっ!?
神ウラノスに誓って……本当に偶然で……。
エイナ
それにあくまでベル君と私は、
冒険者とアドバイザーという関係で。そういうことでは……。
ヘスティア
……うん。嘘は、ないみたいだね。
ちょっと、気にかかるとこはなくもないけど……。
リリルカ
ヘスティア様、ここはエイナ様も一緒に
『きゃんぷ』をするというのはどうでしょうか?
ヘスティア
へ?
リリルカ
『そろきゃんぷ』とやらでベル様との逢引の好機を与えるより
リリたちの監視の目が届く環境にいてもらった方が得策かと……。
ベル
ちょ、リリ……エイナさんにも予定が……。
ヘスティア
ナイスアイデアだ、サポーター君!
という訳でアドバイザー君! 一緒にキャンプ楽しもうじゃないか!
エイナ
え、えええええええええ!?
ヘスティア
さぁっ! 迷宮都市を離れたこのセオロの密林で!
元気に仲良く、めいっぱい大自然を満喫するぞーーーーーーーーっ!!
エイナ
(──ベル君は、アドバイザーが支えるべき冒険者で、
弟みたいな存在。大丈夫、私は大丈夫。ベル君は弟──)
ベル
……エイナさん?
エイナ
ひゃっ!? ベベベ、ベル君!? わ、私とキミは冒険者と
アドバイザーっ! うん! そう! だから大丈夫だよっ!!
ベル
あ、え、えっと……脅かしちゃってすいません。
その、細かく切ってるの、焚火の薪ですか?
エイナ
う、うん。これ『フェザースティック』って言って、
火を起こしやすくする薪なんだ。
ベル
ああ、そんなものがあるんですね! 確かにそれだと
燃えやすそう……エイナさん、詳しいんですね。
エイナ
ふふ、初めての『きゃんぷ』だから、
関係しそうな本、片っ端から読んできちゃった。
エイナ
ほら、普段からベル君にもダンジョンの座学をしてもらってるし
言ってる私がそういうことしないっていうのも変かなって。
ベル
普段の心がけ……ってことですね。
やっぱりエイナさんはすごいなぁ……。
エイナ
そ、そんなこと……!
でも……困ったことがあったら遠慮なく頼って、ね?
エイナ
必要そうな登山道具もあらかた買ったし、『きゃんぷ』でも
ベル君のアドバイザーとして役に立ってみせるから!
ベル
はいっ、ありがとうございます!
エイナ
(──うん。やっぱりベル君は、圧倒的弟的存在っ!
変なこと考えてないで、ちゃんと導いてあげないと)
3話
エイナ
『弟』って字を掌に3回書いて──ぺろ。
エイナ
──うん。平常心高まってきた……かも
噂に聞いた極東の習わし、結構効果あるのかな?
鳥の声
キュピーー……。
エイナ
耳を澄ませば聞こえてくる鳥の声……見渡す限りの大自然……
胸の中の、ドキドキが消えていく……。
エイナ
ん――私は、平常心。
私は、ベル君のお姉さんみたいなもの……
鳥の声
キュピーーーーーーーーッ!
エイナ
あはは、小鳥さんもそうだって言ってくれてるのかな?
そうだよね! なにをいちいち悩んでたんだろ!
エイナ
Lv.4にはなったけど。ベル君は、甘えん坊で優柔不断で、
まだまだ私が色々教えてあげないとダメなお子様なんだから──
ファイアーバード
ギュビィイイイイイイイイイイイッ!!!!
エイナ
──えっ!?
エイナ
きゃっ!?
ファイアーバード
ギュビ!!!!!
エイナ
ファ、ファイアーバード!?
エイナ
──きゃああっ!!
エイナ
(このまま逃げても、冒険者でもない私の足じゃ、
絶対に追いつかれる……!)
エイナ
(鳥系モンスターは、嗅覚や聴覚じゃなくて、
視覚で標的を捉える。ファイアーバードも例外じゃないから──)
エイナ
──えいっ!!
ファイアーバード
ピギィイイ!?
エイナ
狼煙用の発煙筒っ!
万が一の時のために、持ってきててよかった……!
エイナ
はぁ、はぁ、はぁ……ここまで来れば……
エイナ
えっ?
エイナ
こんなに、たくさん……。
ファイアーバード
ピギィィィィィィィィィィィッ!!!
エイナ
やっ、ダメッ……!
逃げられないっ──
ベル
【ファイアボルト】ッ!!
ベル
エイナさんっ!
エイナ
ベル君!? ど、どうしてここに!?
ベル
森を散策してたら、煙が見えて、
エイナさんの声が──
ファイアーバード
ギィイイイイイッ!!
ベル
迎撃しますっ!
僕の後ろにいてください。
エイナ
う、うん!
ベル
【ファイアボルト】! 【ファイアボルト】!
エイナ
(すごい……
ファイアーバードの炎も上回って、一撃で……)
エイナ
(これが、今のベル君──
【白兎の脚】……なんだ)
ベル
【ファイアボルトォオオオオオオオ】!!
エイナ
(いつもと違う、冒険者の――。
これが、本当のベル君……)
ベル
あ、あの。すいません……その……
ちょっと戦いにくくて……。
エイナ
ひゃあっ!? なに密着しちゃってるの私!?
エイナ
ごごごごごめんなさい! こんなエルフの血を引くものとして
あるまじきふしだらな反省文三千枚級の失態を──
ファイアーバード
ギエェエエエエエエエエエエエエッ!!
エイナ
あっ……!!
ベル
エイナさんっ……!!
4話
ベル
ぼ、僕っ、冒険者になりたいんです!
エイナ
……確認しますが、新規の冒険者、
登録の方でお間違いありませんね?
ベル
はいっ!
エイナ
それでは、この用紙に必要事項の記入を
お願いします。
ベル
え、えっと……はい。
エイナ
あらためまして、オラリオへようこそ、ベル・クラネル氏。
ギルドともども私達は貴方を歓迎します──
エイナ
迷宮内での被害、損失に関してギルドは一切の責任を負いません。
また伴ってご自身のお命も保証もしかねます。
エイナ
やり直しなどは存在しないことを、
くれぐれもご自覚ください。
ベル
は、はいっ。
エイナ
──それでですが、
迷宮探索アドバイザーはお付けになられますか?
ベル
アドバイザー……?
エイナ
はい。ダンジョンを探索する上で、全面バックアップを務める
個人専用の担当官を、ギルドの方から冒険者の方々に提供しています。
ベル
ぜひっ! お願いします!
エイナ
わかりました。それでは、担当するアドバイザーの性別に
ご要望はありますか?
ベル
え、えっと……じょ、女性の方、で……?
エイナ
かしこまりました。では、こちらの中から、
ご希望する種族をお選びください。
ベル
あっ、えっと、その……それじゃ……。
エイナ
『エルフ』──ですね。
ベル
あっ……。
エイナ
ふふっ、承りました。
エイナ
人気のある種族は、ご希望が通らないことがありますので、
ご理解のほどをよろしくお願いします。
エイナ
目が合う度に顔を赤くして、
冒険者らしさなんて微塵もなくて──
エイナ
沢山の冒険者を見て来た同僚からは、あの新人は見込みがない、
早死にする……なんて言われて。
エイナ
私は、もう……
冒険者のそんな姿、絶対に見たくなかったから。
エイナ
私があの子を、支援して生かしてみせる、
守ってみせるって。覚悟を決めてベル君のアドバイザーに──
エイナ
ん……あれ……?
ベル
あっ、エイナさんっ!?
大丈夫ですか!?
エイナ
う、うん……
えっと、ここって……。
ベル
さっきの崖の下です。エイナさんを抱えたまま
下に落ちちゃって……。
ベル
エイナさんはそのまま気を失っちゃったので……
あの、本当に痛いところとかないですか?
エイナ
え、えっと。ちょっとファイアーバードの炎がかすって……
手を火傷しちゃったけど。軽傷だから大丈夫。
エイナ
ごめんねベル君。迷惑かけて……。
ベル
そんなことは──あ、ちょっと待っててください!
エイナ
ベル君……?
エイナ
道っぽいものも見当たらない……
これって……遭難……?
エイナ
あぁっ、もう。私がしっかりしなきゃいけないのに、
ベル君を巻き込んで、迷惑かけて……!
ベル
あの。火傷したところ、見せてください。
エイナ
え? うん……。
ベル
失礼します──
エイナ
ベ、ベル君!? ななななっ、なにを塗ってるの!?
なんかぬるぬるするけどこれ!?
ベル
この辺りに生えてた薬草を、すりつぶしたものです。
匂いはちょっとキツいけど、良く効くんです。
エイナ
(ベベべ、ベル君が私の手を……!?)
エイナ
(いやっ、治療のためにやってくれてるだけだから!?
ドキドキなんてしてないっ!? 断じて! 絶対! たぶん……!)
エイナ
(そう……平常心。ベル君は弟……迷惑かけちゃったけど、
ここからは、私がちゃんと助けてあげなきゃダメなんだから)
ベル
エ、エイナさん……大丈夫ですか?
なんか、赤くなったり苦しそうな顔をして……。
ベル
あっ!! もしかして、体調がよくないんじゃないですか!?
ちょっといいですか、熱を──
エイナ
ひゃんっ!? だ、大丈夫! 私は、大丈夫!
そそそ、それよりベル君、薬草とかに詳しいんだね!?
ベル
ええ。昔、お祖父ちゃんに──
エイナ
あっ……雨……?
ベル
向こうに、雨宿りもできそうな洞穴がありました。
移動しましょう!
5話
エイナ
──はぁ、はぁ。山の天気は変わりやすいって言うけど。
それにしたってすごい雨だね。
ベル
……でも、このキャンプ用の服ってすごいですね。
水を弾いて、温かくすればすぐ乾きそうです。
エイナ
……あ、それならまず焚火をつけないと、だね!
ちょっと枝取ってくるよ。
ベル
濡れちゃいますよ!?
そういうのは、僕が……。
エイナ
もう、さっきの戦いで疲れてるでしょ?
ベル君は、そこでジッとしてなさい!
エイナ
焚火のつけ方ならバッチリ予習してきたし、
任せてベル君っ! 今日の私は野営アドバイザーなんだから!
エイナ
あれ? 火花は出てるのに……火がつかない?
枝が、雨で湿ってるせいかな。
ベル
みたいですね。
あ……ちょっといいですか?
エイナ
焚き木を組み替えてるの……?
ベル
はい。燃えやすい木や、比較的乾いてそうな小枝を
中心に組んであげて。燃えやすそうな草を中に──
エイナ
すごい……
ベル
昔教わったことがあるだけですから。
エイナ
っ!?
じゃ、じゃあ私なにか飲み物を──
ベル
すぐにお湯を沸かして、温かいものを用意しますから。
ちょっと待っててください!
エイナ
えぇっと、えぇぇっと……それじゃ私は──
ベル
あっ!! お腹減ってたりしませんか?
軽く食べられそうなものを調達してきますね!!
エイナ
………………。
ベル
エ、エイナ、さん……?
エイナ
ベル君……こういうの得意なんだね?
ベル
あ……故郷だと山で遊ぶことも多かったですし、
お祖父ちゃんが色々教えてくれて……。
ベル
あっ、そうだ。濡れた枝が乾くまで煙が出ちゃうんで、
こっち側にいてください。
エイナ
んーーーーー……。
ベル
……エイナさん?
エイナ
なんでもないっ!
エイナ
(なんで今日に限って三割増しで頼れる男の子になっちゃってんのー!
こんなんじゃ私……! 私はーーーっ……!)
エイナ
(ベル君のバカーーーーーーーーッ! 頼りなくて、
甘えん坊な【リトル・ルーキー】はどこいっちゃったのよぉー!)
ベル
あ、あの……炙った野草を刻んで入れたお茶です。
これ、身体の芯まで温まりますから。
エイナ
ありがとベル君……それと、ごめんね。
さっきは、変な態度取っちゃって……。
ベル
いえ。遭難して、気も動転してると思いますし……。
ベル
むしろ僕……エイナさんに……
イヤなことしちゃってたりしませんか?
エイナ
えっ? ど、どうして!?
ベル
ここに来てから、ずっとエイナさんの様子が変で。
『また』悲しませるようなことしたかなって──
エイナ
『また』って──
エイナ
信じないよ……。
エイナ
信じる訳ないでしょ……
エイナ
っ……!!
エイナ
──ちっ、違うのこれは! 私の方が勝手に……
ベル君は何も悪くないっていうか、その……。
エイナ
……本当にごめんっ!!
すぐいつも通りになるから、許してベル君。
ベル
あはは、許すもなにも……
変なことしてないって、分かって良かったです。
ベル
その……僕、もう絶対に……
エイナさんに、あんな顔させたくないですから。
エイナ
っ……!!
エイナ
(もぉぉぉおおおおっ……キミって子は……
なんでそういうことサラっと言っちゃうかなぁ!?)
エイナ
(キミってばもしかしてタケミカヅチ様級の
天然ジゴロだったりする!? バカ! バカバカバカーっ!!)
ベル
……?
6話
エイナ
このお茶……すごくおいしい。
野草で作ったとは思えない。
ベル
それに身体が温まると、気持ちも落ち着きません?
雷とか鳴って、怖い夜とか……お祖父ちゃんが作ってくれて。
エイナ
ありがと。おかげで……ちょっと平常心取り戻せたかも。
エイナ
きゃっ!?
エイナ
ど、洞窟の奥に何かいる!?
ベベベ、ベル君──
ベル
あ、あのエイナさん……その、腕に当たって……。
エイナ
ひゃあああああっ!?
エイナ
ごごご、ごめんっ! 年下の子に胸押し付けるとか、
なんて淫蕩で破廉恥でヤバいエルフ……!
ベル
そ、そんなこと思ってませんから!
落ち着いてください!?
エイナ
うぅ……ずーっと情緒不安定だったし、完全にアドバイザー失格。
帰ったらちゃんと落とし前つけるから許して……!
ベル
落とし前!? つ、つけなくていいですから!?
あっ、来ます──
エイナ
えっ、あれって──
ベル
──雨、すっかりやんだみたいですね。
エイナ
よかった──
エイナ
──それにしてもあの洞窟、キツネの住処だったなんて。
仔狐、かわいかったね。
ベル
はい。でも……すみません。
せっかく雨風をしのげる場所だったのに。出ようって……。
エイナ
ううん。私も、あの子達を脅かしたくないし。
そういう優しいところ、ベル君らしくていいと思うな。
エイナ
でも……これから、どうしよっか?
ベル
えっと。帰り道を探すのは、
朝になってからの方がいいと思うんですけど……。
ベル
……エイナさん。
『きゃんぷ』、まだ楽しめてない……ですよね?
エイナ
えっ?
ベル
せっかく来たのに……こんなことになっちゃって。
『きゃんぷ』、イヤになっちゃってたりしないかなぁって。
エイナ
そ、そんなことないよ!? ただ迷惑かけて申し訳ないというか、
もっと、ベル君を助けてあげたかったというか……!
ベル
あの……エイナさん、ちょっと山を登りませんか。
エイナ
え、でも道を探すのは夜が明けてからって……?
ベル
はい、山頂はここからでも位置が確かめられますから。
ベル
それに、見晴らしの良い居場所に行った方が
場所も把握しやすいしモンスターの襲撃も分かりやすいですし。
ベル
あと……見てもらいたいものも、あって。
どうですか……?
エイナ
う、うん……いいよ。
キミがそう言うなら、行こうか。
ベル
えっと。エイナさん、失礼します──
エイナ
えっ!? どどど、どうしたのベル君!?
急に手なんて……。
ベル
す、すみません!
この辺りの道、ゴツゴツしてて危ないので……。
エイナ
……う、うん。ありがと……。
エイナ
(こんな気遣いまで……キミが冒険者登録をしたあの日から……
そんなに経ってる訳でもないのに……)
エイナ
(本当に、キミはかっこよくなったね……)
ベル
えっと……僕の顔、何かついてます?
エイナ
……な、なんでもないからぁ!
ベル
……?
エイナ
(そういう鈍感なところが、昔のままなのは
ホッとするけど……)
エイナ
さっ、いこっか! 夜の登山なんて、
なかなかできるものじゃないし。楽しまないとね。
7話
エイナ
──これがキミが見せたかったもの?
ベル
はい。どうですか、エイナさん?
エイナ
きれい……。
エイナ
こんなに、透き通った夜空……
山の上だと、星ってこんなに輝いてるんだね。
ベル
小さい時に、僕も感動して。
だからエイナさんにも見て欲しくて。
エイナ
………………。
エイナ
……ありがとう、ベル君。
ベル
あ、ここで一晩すごすなら、天幕が必要ですよね。
ちょっと待っててください!
エイナ
えっ? 天幕って……持ってきてないよね?
ベル
自然の中には、なんだってありますから!
ちょっと待っててくださいね──
エイナ
えっ!? ええええええええええええっ!?
こんなの……どうして一瞬で作っちゃえるの!?
ベル
えっと。これもお祖父ちゃんが……男子たるもの
いついかなる時も、天幕のひとつくらい作れるようになれ──
ベル
そして女子を守り、あわよくばくんずほぐれつほぐれてほぐれろ!
って。や、後半のは、よくわからなかったんですけど……。
エイナ
ベル君のお祖父ちゃんって何者なの……。
エイナ
でも……
本当に……恥ずかしいなぁ……。
ベル
えっ?
エイナ
困ったことがあったら遠慮なく頼ってとか、
聞きかじりの知識で偉そうにお姉さんぶって。
エイナ
今日一日、かっこつけて空回りしてベル君に迷惑かけて……
こんなの、アドバイザー失格だよ。
ベル
そんなことないです! ダンジョンの中で、
何度もエイナさんから教えて貰った知識に救われました!
ベル
エイナさんのおかげで、仲間の命を救えたことだって!
大変なときも、いつも気にかけてくれて。僕にとってエイナさんは……。
ベル
どこでも、最高のアドバイザーですっ!
それは……エイナさんにだって否定させません。
エイナ
ベル君……。
エイナ
(ダメ……ベル君は、冒険者で、仕事上の付き合いで、
年下の男の子で、憧れてる人がいて……)
ミィシャ
一度きりの人生だよ? 仕事だけで人生終わっちゃっていいの?
踏み出さないと何も始まらないんだよ?
ミィシャ
エイナは、よく冒険者は冒険しちゃいけないって言うけどさ。
女の子は、時には冒険しなきゃいけない時だってあるの!
エイナ
……ベル君。私……思ってること、言っていい……かな?
ベル
え……なんですか?
エイナ
この言葉を……口にしちゃったら、
キミのことを困らせちゃうかもしれない。
エイナ
きまずい思いをさせちゃって、もしかして
専任アドバイザーを変えて欲しいって思っちゃうかも。
ベル
そんなこと、絶対に思いません。
何があっても、エイナさんだけが僕のアドバイザーです。
エイナ
あはは……なんか言わせちゃったみたいで。
ずるいね、私……。
エイナ
……あのね。ベル君。私……。
エイナ
………………。
エイナ
私……ベル君のことが……。
ベル
……はい……。
エイナ
ベル君のことが──
ヘスティアの声
──うわぁああああああああああああっ!!
誰かっ! 誰か、助けてくれぇええええええええ!!
エイナ
えっ!?
ベル
この声、神様っ!?
ファイアバード
ピギャアアアアアアアアアアアッ!!
ヘスティア
なっ、なんなんだこいつらは!?
ボクは、おいしくないぞっ! あっちいけー!
ベル
神様っ、こっちですっ!?
ヘスティア
ベル君!? こんな時に会えるなんて、
やっぱりボク達は運命の糸で結ばれた永遠のーーーっ!
ベル
い、いいから早くっ!!
迎撃しますから、エイナさんも下がっててください。
エイナ
あ……え……うん?
8話
ベル
これで終わりだっ!
【ファイアボルトォオオオオオオオ】!!
ファイアバード
フンギャーーーーーーーッ!!
ベル
ふたりとも、大丈夫ですか?
エイナ
あ……うん。ありがと、ベル君。
ヘスティア
えへへ、さすがボクのベル君っ!
地上のモンスターなんて、楽勝だねっ!
ベル
神様……なんでこんな夜遅くにこんなところに……。
ヘスティア
君達がいつまで経っても帰ってこないから
みんなで探してたに決まってるじゃないか!
ヘスティア
それで、夜の森を探し回ってたらみんなとはぐれて、
さっきの鳥が集まって来てさ。送還させられるかと思ったよ……。
ベル
本当に、無事で良かったです……。
エイナ
申し訳ありません。ご迷惑おかけして……。
ヘスティア
あっはっは! いいさ気にしなくても。
ボクは心のひろ~い慈愛の女神だからねっ! それより──
ヘスティア
──君達は、こんなところで
『ふたりっきり』で何をしてたんだい?
ヘスティア
いやー……ベル君と一緒に、
アドバイザー君までいなくなってるじゃないか?
ヘスティア
サポーター君は、嫌な予感がビンビンする泥棒猫死すべしって
いきりたってたけど……うん。ボクは信じてるぜ?
エイナ
えっと……その……
いかがわしいことは……何も……。
ヘスティア
んーーーー? なんか、こう……嘘はないけど、
怪しいというか甘酸っぱいというか未遂というか……。
ベル
ほ、本当に何もありませんから!
今も見晴らしのいい場所に移動してきただけですし……!
ベル
それで、朝まであの天幕で休んでから
みんなのところに帰ろうって話してて──
ヘスティア
あの狭い天幕で?
ベル
はいっ!
ヘスティア
ふたりきりでかい?
ベル
そうです!
ヘスティア
なにを無邪気にのたまっちゃってるんだ、
ベルくぅぅぅぅぅぅぅんっっ!
ヘスティア
狭い天幕で身体を密着させて朝まで……
そんなの許すわけないだろーーーーっ!! 完全にアウトだー!
ベル
で、でも……
遭難したときは、ちゃんと休んで体力を回復させないと……。
ヘスティア
えーい! それならボクも一緒に寝てやるっ!!
ほらほら、3人で仲良く川の字になって寝ようじゃないか!
ヘスティア
ベル君もアドバイザー君もこっちにこいっ!
神の強権発動で真ん中で寝るのはボクで決定だ!!
エイナ
えっ!? 神ヘスティアっ!?
エイナ
これ……ギュウギュウすぎるというか、
主に胸の辺りの圧迫感がすごすぎて眠るどころじゃ……。
ヘスティア
ふふーん。残念だったねアドバイザー君っ!
ベル君はボクのなんだ! ほら~、こっちにおいでベルくぅ~ん!
ベル
むぎゅっ!! か、かかか神様……!!
い、息が……!! 息がぁあああああああ!!
ヘスティア
ぐーすぴ~……ベルくぅん~……
今夜は君を寝かさないぜぇ……。
エイナ
ぐっすり寝てるね。
さすが神様というか……私、一睡もできなかったよ。
ベル
ですね。僕もです。
ベル
あ、そういえばエイナさん。
昨日、大切な話があるって言ってましたけど……。
エイナ
あー……えーっと……あ、なんだっけ!?
なに言おうとしてたか忘れちゃった!
ベル
そうなんですか?
エイナ
う、うんっ……たぶん、キミがLv.4になって、これから
もっと頑張らなきゃ、みたいな話だった……気がするなぁ。
ベル
あ、はい!
それはもちろん頑張ります!
エイナ
うん……私も、昨日の星空のお礼に
頑張ってキミを支えるから!
エイナ
……だからベル君は、オラリオに帰ったら
ダンジョンで頑張って……絶対に、生きて帰ってくるんだよっ!
ベル
──はいっ! 約束します!
エイナ
ふふ。いつも返事だけはいいんだから。
エイナ
ま、今はとりあえず──
みんなと『きゃんぷ』の続きを楽しもっか!
END